2人が本棚に入れています
本棚に追加
晴人は驚きつつ手を下ろし、椅子を回転させて上司の顔を見る。彼の喜びように、上司はニカッと笑ってみせた。
「おう、マジだぞ! たまには明るいうちからデートにでも行ってこい!」
「あ…」
上司は、若い晴人に恋人がいるものと思い込んでいる。粋なセリフを言ったつもりなのだろうが、恋人がいない晴人にはそこそこ強力なボディブローになった。
「あっ」
彼の顔に影が差したのを見て、上司は何かに気づく。
気まずい表情になると、声を細めつつこう言った。
「…えーっと…と、とにかくだ、もうあがっても…いいぞ?」
「ど、どーもッス」
晴人は小声で返事をする。それを受けて上司は彼の席から離れていった。
怒ると怖い上司だったが、意外と繊細なところがあるのだなと晴人は思った。
彼の顔に、自然と苦笑が浮かぶ。
(気ィつかわれなかったらつかわれなかったで傷つくし、気ィつかわれたらつかわれたでなんか気まずいし…なんなんだろうな、これ)
しばらくの間、その苦笑が消えることはなかった。笑いと嘆きが同居する不思議なおかしさが、彼の中に居座り続けた。
それからすぐに晴人は帰り支度をすませ、上司や同僚たちに挨拶をして会社を出る。
(イヤなヤツはいなくなったし、早く帰れるし、今夜は思いっきり遊ぶぞ!)
最初のコメントを投稿しよう!