滴る鉄の網

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 晴人は驚きつつ手を下ろし、椅子を回転させて上司の顔を見る。彼の喜びように、上司はニカッと笑ってみせた。 「おう、マジだぞ! たまには明るいうちからデートにでも行ってこい!」 「あ…」  上司は、若い晴人に恋人がいるものと思い込んでいる。粋なセリフを言ったつもりなのだろうが、恋人がいない晴人にはそこそこ強力なボディブローになった。 「あっ」  彼の顔に影が差したのを見て、上司は何かに気づく。  気まずい表情になると、声を細めつつこう言った。 「…えーっと…と、とにかくだ、もうあがっても…いいぞ?」 「ど、どーもッス」  晴人は小声で返事をする。それを受けて上司は彼の席から離れていった。  怒ると怖い上司だったが、意外と繊細なところがあるのだなと晴人は思った。  彼の顔に、自然と苦笑が浮かぶ。 (気ィつかわれなかったらつかわれなかったで傷つくし、気ィつかわれたらつかわれたでなんか気まずいし…なんなんだろうな、これ)  しばらくの間、その苦笑が消えることはなかった。笑いと嘆きが同居する不思議なおかしさが、彼の中に居座り続けた。  それからすぐに晴人は帰り支度をすませ、上司や同僚たちに挨拶をして会社を出る。 (イヤなヤツはいなくなったし、早く帰れるし、今夜は思いっきり遊ぶぞ!)     
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