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桜
桜が舞う、ある春の小さな恋物語。
たった一度しか会わなかったけれど、僕たちは確かに同じ時を過ごした。
春の風が強い日、彼女と出逢った。
桜の花弁と一緒に黒髪が舞っている。
きっと彼女を見たその瞬間に僕は恋に落ちたんだと思う。だって、風が囁いたんだ。
時が止まったような感覚と心臓が跳ねあがる音、いつまでも目に焼き付いて離れない光景。
それが僕の彼女への気持ち全てだった。
僕は彼女の名前も住んでいる所も、知っているものなんて何も無かった。
それどころか今までに彼女を見た事すら無い。
生まれた時からこの街に住んでいるけれど、ただの一度も。
初めて逢ったにもかかわらず、彼女は僕に色んなものをくれた。
綺麗で何処か大人びた微笑みと鈴の音のような笑い声、無邪気な子供のようにはしゃぎまわる姿、そのどれもに心を奪われていった。
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