Accident.2 接近

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 それが、娘の命の額かと思うとやり切れない気持ちはあったが、相手に渡しさえすれば、娘は戻ってくる。  その一心で、駅近くのパーキングまで自分で運転し、駅へ向かった。  指定されたベンチに着くと、トレントの端末から連絡が入った。すぐに、金だけ置いて自宅へ戻れ、と。  金を直接渡すから、すぐに娘を返してくれるよう訴えたが、無駄だった。  自宅へ戻ったのを確認したら、改めて連絡するから待てと言われたのだ。  そして、今に至る。  自宅へ戻ったのが、午後五時半。現在、五時四十五分だったが、その十五分が――いや、それどころか、駅をあとにしてからの四十五分間が、何時間にも感じられた。 (ヴィエノ……)  祈るように娘の名を脳裏で呟いた時、手の中の端末が着信を告げる。  ハッとして画面を見ると、トレント執事の端末からだ。すぐに画面をタップする。 「もっ、もしもしっ!」 『貴様、娘の命が惜しくないのか?』  開口一番、変声機を通した声が言ったことが、リネーアには理解できなかった。 「何のこと? お金は、言われた通りに、駅のエントランス中央のベンチと鉢の間に置いたわ。だから早く、娘を返して!」 『金はなかったぞ』 「えっ?」  リネーアは混乱する。が、必死に言葉を継いだ。 「そんな筈ないわ! 五時のちょうど五分前よ! あなたから電話があって、ちゃんと言われた通りに……」 『そんなことは関係ない。重要なのは、一万グロスが私の手に渡らなかったことだ』 「そんな……! 私は言われた通りにしたわ! 娘を返して!」 『もう一度、チャンスをやろう。今度はしくじるなよ。今度しくじったら、三度目はないぞ』  犯罪者に、理屈は通じない。  とにかく、金を手にしさえすれば、相手は娘を返してくれるだろう。そう、自身に言い聞かせ、リネーアは早々に折れた。 「分かった……分かったわ。どうすればいいの」 『ペナルティだ。次は二万グロス。今度こそ、私の手に渡るようにしろ。さもないと、娘には永久に会えないことになるだろう』
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