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それが、娘の命の額かと思うとやり切れない気持ちはあったが、相手に渡しさえすれば、娘は戻ってくる。
その一心で、駅近くのパーキングまで自分で運転し、駅へ向かった。
指定されたベンチに着くと、トレントの端末から連絡が入った。すぐに、金だけ置いて自宅へ戻れ、と。
金を直接渡すから、すぐに娘を返してくれるよう訴えたが、無駄だった。
自宅へ戻ったのを確認したら、改めて連絡するから待てと言われたのだ。
そして、今に至る。
自宅へ戻ったのが、午後五時半。現在、五時四十五分だったが、その十五分が――いや、それどころか、駅をあとにしてからの四十五分間が、何時間にも感じられた。
(ヴィエノ……)
祈るように娘の名を脳裏で呟いた時、手の中の端末が着信を告げる。
ハッとして画面を見ると、トレント執事の端末からだ。すぐに画面をタップする。
「もっ、もしもしっ!」
『貴様、娘の命が惜しくないのか?』
開口一番、変声機を通した声が言ったことが、リネーアには理解できなかった。
「何のこと? お金は、言われた通りに、駅のエントランス中央のベンチと鉢の間に置いたわ。だから早く、娘を返して!」
『金はなかったぞ』
「えっ?」
リネーアは混乱する。が、必死に言葉を継いだ。
「そんな筈ないわ! 五時のちょうど五分前よ! あなたから電話があって、ちゃんと言われた通りに……」
『そんなことは関係ない。重要なのは、一万グロスが私の手に渡らなかったことだ』
「そんな……! 私は言われた通りにしたわ! 娘を返して!」
『もう一度、チャンスをやろう。今度はしくじるなよ。今度しくじったら、三度目はないぞ』
犯罪者に、理屈は通じない。
とにかく、金を手にしさえすれば、相手は娘を返してくれるだろう。そう、自身に言い聞かせ、リネーアは早々に折れた。
「分かった……分かったわ。どうすればいいの」
『ペナルティだ。次は二万グロス。今度こそ、私の手に渡るようにしろ。さもないと、娘には永久に会えないことになるだろう』
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