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惚れるなら、もっと気働きができて、戦闘時に足手纏いにならない女のほうが、効率だっていいに違いないのに。たとえば、亡き親友・アマーリアや、アレクシスのような。
などと考えつつ、ティオゲネスは携帯端末を取り出し、“惚れて効率のいい女性(注・ティオゲネス基準)”の一人である、アレクシスの番号を呼び出した。普段、こんな時なら呼び出すのはラッセルだが、ダメになったデータをそのまま、さっさと逃げてしまった手前、手を貸して貰うのは無理だろう。
何コールかの呼び出し音が途切れ、ティオゲネスは前置き抜きに口を開く。
「――あ、アレクか? 悪い、ちょっと手貸して欲しいんだけど」
『あー、その声は、仕事途中でとっととお帰りになりやがったティオゲネス君ですか?』
「げっ、ラス!?」
応答した言葉を聞いた途端、肩を跳ね上げるように竦めた。
「何でアレクのケータイにあんたが出るんだよ!」
『顔ばっか綺麗なティオゲネス君と違って、心まで美しーいアレクが、パソコンの調子見に来てくれたんだよ! 幸い電源入れたらすぐ入ったし? 入力したデータも無事みたいだぜ? まあ、キーボードは買い換えなきゃいけねぇみたいだけどな』
「だから、キーボードがポシャったのは俺の所為じゃねぇだろ!」
『いーや、お前の所為だ。お前が避けなきゃ、キーボードは無事だったんだからな』
「大人げねぇ理屈こねんな! あんなファイル、頭にヒットしてみろ! 今頃俺が病院行きだぞ、せっかく全快したってのに! キーボードの新調代と病院代、どっちが高く付くか考えろよ!」
『んじゃ、言い直す。お前が居眠りこいてたのが諸悪の根源だ。よってお前が悪い!』
「それは……!」
そこを突かれると、ぐうの音も出なくなる。
(なコト言われたって、眠くなるモンは仕方ねぇじゃねぇか)
口から出そうになるそれを、どうにか呑み込む。直感的に、これを言ったら、何かがおしまいのような気もした。
他に巧い言い回しはないか、と頭を巡らせ、必然沈黙していると、『あーもー、いつまで低レベルの争い続けるつもり?』と電話口の相手が変わった。
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