6人が本棚に入れています
本棚に追加
『あ、ティオ? あたし。ごめんねー、ちょっと手、放せなかったもんだから。で、何か用? エレンちゃんとデートじゃなかったの?』
「あ、ああ……」
だからデートじゃねぇんだけど、と言う文句が脳裏をよぎるが、口に出せばまた話が脱線しそうなので、これも何とか呑み込んだ。
「いや、実はちょっと、シティ駅まで来て欲しいんだけど」
『シティ駅って、メストルの?』
「そう」
ティオゲネスは、自身がエレンと落ち合った時、彼女が鞄を拾っていたことと、その中身を話した。
「――で、アレクはどう思う?」
『んー……そうねぇ。どう考えてもそんな大金、そんな所に落とさないわよねぇ』
「だろ? だから、ちょっとこっちまで来て欲しいんだ」
『何で?』
「だって、こんな大金、どう考えても駅の遺失物係の職務範囲外だろ?」
『本部は徒歩十分圏内よ? こっちに戻って、生活安全課に届ければ済むじゃない』
ティオゲネスは、瞬時沈黙した。
「……フツーに落としそうな場所に落ちてたなら、俺だってそうするけどよ。アレクだって言っただろ? こんな大金、ベンチと鉢植えの隙間に、隠すように落とすか? 休憩ついでに置いて忘れる場所でもねぇだろ?」
改めて指摘され、アレクも一瞬沈黙する。
『……でも、あたしが行ってどうするの?』
「駅の防犯カメラを調べたい。けど、CUIOバイト程度の俺じゃ、強引に見せて貰う権限はねぇし……まあ、その辺のネカフェから適当にハッキングしていいなら、勝手にやるけど?」
吐息を挟んだアレクは、『分かったわ』と言った。
『すぐこっち出るから。駅のどこ?』
「改札入る前にある、公衆トイレ。分かる?」
『オッケー。じゃ、十分後にね』
最初のコメントを投稿しよう!