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Accident.3 交錯
通信が途切れ、しばらく呆然としていたリネーアは、一つ目を閉じて吐息を吐いた。
それから、端末をスカートのポケットへ入れ、急いで二階にある彼女の私室へ赴く。
やがて、降りてきた彼女は、さっき金を入れたのとは違う旅行鞄を携えていた。今度は、キャリーカートだ。金も、その中に入っているのだろう。
先刻、出掛けた時に持っていたポシェットを、ソファから取り上げ、春用の、ベージュのコートに身を包む。
「じゃあ、行ってくるわ」
心配げなメイドに向かって、一つ頷く。リネーア本人の顔色も、良いとは言えない。
「奥様。ですが、今からどうやって」
「メストルからなら、ルースト・パセヂ前のホテル街まではそう遠くないわ。まだ列車も出ているし、大丈夫よ」
「でも……」
「大丈夫。必ず、ヴィエノもトレントも、戻ってくるわ」
半ば、自身に言い聞かせるように告げるリネーアに、メイドは泣き出しそうな顔で首を振った。
「奥様、ダメです。もう警察へ届けましょう」
「いいえ、それこそダメよ。万が一、こちらの行動が向こうへ筒抜けだったらどうするの?」
「じゃあ、せめて旦那様に」
「あの人に頼るくらいなら、ヴィエノと心中でもしたほうがマシよ。それに、このことがあの人の耳に入ったら、どうせヴィエノを失うことになるわ」
メイドは、尚もリネーアが一人で出掛ける以外の打開策を探ろうとしたようだ。だが、結局、先に挙げた二択より他に、策は見つからなかったらしい。
「留守を頼むわ。あの人から、もし何か連絡があったら、適当に誤魔化して。いいわね」
メイドは、やはり答えなかった。答えられなかったと言ったほうが正しいのかも知れない。
しかし、リネーアはメイドの肩先をポンポンと叩いて、身を翻した。
***
アレクシスと、何故かくっついて来たラッセルとも合流したあと、ティオゲネスはラッセルとともに、駅エントランスの聞き込みに入った。
エレンは、防犯カメラチェックに行ったアレクシスに預けてある。
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