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時刻は、午後四時五十五分頃。
ベンチを中心にした映像が映し出されている。その中に、特に不審な動きをする者はいない。だが、ティオゲネスは、既視感を覚えるモノを見つけた。
今、まさにエレンが持っている、小振りの旅行鞄と同じモノだ。
それを持っているのは、女性だろうか。カメラが遠すぎてはっきりしない。
だが、上着はベージュで、その裾から濃い赤色のスカートが覗いていることからすると、十中八九、女性と思っていい。頭髪は、柔らかなブラウンで、ボブヘアに見える。靴は、形までは分からないが、濃灰色のようだ。
「ここ、拡大できるか」
「ここの設備じゃ無理ね。コピーさせて貰って、本部の機械でなら……」
アレクシスが言う間に、映像の中の、女性と思しき人物は立ち上がる。クルリとカメラに背を向け、しゃがみ込んだ。
次に立ち上がった時、その女性は、旅行鞄らしきモノを持ってはいない。薄いピンク色のポシェットだけを肩にかけ直した女性は、早々にその場を立ち去った。
その直後に、エレンが来て、しばらくしてベンチと鉢植えの間を探った。そのあと、映像の中で、ティオゲネス自身が彼女に近付き、一、二分のやり取りののち、その場を離れる。
更にそのあとの映像に、ティオゲネスは目を奪われた。
明らかに、まっすぐベンチと鉢植えの間へ向かった人物がいたのだ。灰色の上着に黒い帽子、ズボンも黒い。背格好は、中肉中背。性別は、やはりカメラが遠すぎる為、判然としない。
その人物は、しばらくその場で、ベンチと鉢植えの周囲を回り、やがて、せかせかとした足取りで、画面から姿を消した。
「この映像、コピーしてくれ。ソッコー本部に戻って、機械借りるぞ」
「……ホントは、こういうのって、礼状取らないと違法捜査なのよねぇ」
「バレねぇようにやろうか?」
アレクシスだけに聞こえるように低く落とせば、彼女はチラとこちらへ視線を向け、口元を苦笑の形につり上げた。そうしながら、キーボードを操る手は緩めていない。
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