Accident.3 交錯

3/8
前へ
/27ページ
次へ
 時刻は、午後四時五十五分頃。  ベンチを中心にした映像が映し出されている。その中に、特に不審な動きをする者はいない。だが、ティオゲネスは、既視感を覚えるモノを見つけた。  今、まさにエレンが持っている、小振りの旅行鞄と同じモノだ。  それを持っているのは、女性だろうか。カメラが遠すぎてはっきりしない。  だが、上着はベージュで、その裾から濃い赤色のスカートが覗いていることからすると、十中八九、女性と思っていい。頭髪は、柔らかなブラウンで、ボブヘアに見える。靴は、形までは分からないが、濃灰色のようだ。 「ここ、拡大できるか」 「ここの設備じゃ無理ね。コピーさせて貰って、本部の機械でなら……」  アレクシスが言う間に、映像の中の、女性と思しき人物は立ち上がる。クルリとカメラに背を向け、しゃがみ込んだ。  次に立ち上がった時、その女性は、旅行鞄らしきモノを持ってはいない。薄いピンク色のポシェットだけを肩にかけ直した女性は、早々にその場を立ち去った。  その直後に、エレンが来て、しばらくしてベンチと鉢植えの間を探った。そのあと、映像の中で、ティオゲネス自身が彼女に近付き、一、二分のやり取りののち、その場を離れる。  更にそのあとの映像に、ティオゲネスは目を奪われた。  明らかに、まっすぐベンチと鉢植えの間へ向かった人物がいたのだ。灰色の上着に黒い帽子、ズボンも黒い。背格好は、中肉中背。性別は、やはりカメラが遠すぎる為、判然としない。  その人物は、しばらくその場で、ベンチと鉢植えの周囲を回り、やがて、せかせかとした足取りで、画面から姿を消した。 「この映像、コピーしてくれ。ソッコー本部に戻って、機械借りるぞ」 「……ホントは、こういうのって、礼状取らないと違法捜査なのよねぇ」 「バレねぇようにやろうか?」  アレクシスだけに聞こえるように低く落とせば、彼女はチラとこちらへ視線を向け、口元を苦笑の形につり上げた。そうしながら、キーボードを操る手は緩めていない。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加