6人が本棚に入れています
本棚に追加
「今、動画のコピーをあたしの携帯に送ったわ。これで本部に戻れば、拡大・鮮明化した画像にできる筈よ」
「サンキュ」
ニヤリと不敵な笑みを返す。
「でも、珍しいな」
「あ?」
駅の職員に挨拶するアレクシスを背に、監視ルームを出ながら、ラッセルが口を開く。
「お前、今まで自分に関係ない事件って、あんまり首突っ込みたがらなかっただろ?」
「あー……」
溜息のように言いながら、ティオゲネスは隣を歩くエレンに、目を向ける。
「……何よ」
自然、エレンと視線が噛み合い、彼女は何故か唇を尖らせた。
「誰かサンに感化されたんだよ、多分」
「何の話?」
「男同士の話」
肩を竦めて返した言葉に、エレンは当然納得していないだろう。その証拠に、唇がますます尖り、頬が膨れている。だが、ティオゲネスは、彼女に詳細な説明をするつもりはなかった。
(まあ、それだけじゃないけど)
恐らく、今回の件も、エレンがとことん首を突っ込みに行くだろうことを考えれば、結局巻き込まれるのだ。知らん顔して、あとで面倒なことになるよりは、進んで首を突っ込むほうが、こっちの被害は浅くて済む。
彼女と出会ってからの四年間で、それは骨の髄まで染みていた。
(あー……ホントに何でこんな面倒くさい女に惚れたんだよ、俺は)
自分で自分を罵倒しても、今更どうしようもない。気付いた時には、彼女しか目に入っていなかったのだから。
「……何溜息吐いてんだ?」
ラッセルに訊かれて、「ああ、ちょっと」と言いながら、目を上げた時、ティオゲネスはまたも既視感に襲われた。
そこは、既に駅エントランスだった。
目の前を通ったのは、ベージュのコートと、裾から覗く濃い赤のスカート、濃灰色の――ショートブーツ。ボブの長さの柔らかなブラウンの髪は、毛先がカールした緩いウェーブだ。
ハッと目を見開いて、その背を視線だけで追う。女性と思しき人物は、ポシェットとキャリーカートを携え、改札口の駅員がいる窓口へ歩いた。
何事かを二言三言、駅員と話し、踵を返す。
最初のコメントを投稿しよう!