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――などと、ぼんやり考えながら歩いていると、知った顔に出くわした。
「あれっ、ティオ?」
声を掛けてきたのは、組織崩壊の時に世話になった一人である女性刑事、アレクシス=グレンヴィルだ。
「久し振りね。今帰り?」
「ああ。今、ラスんトコ、行かない方がいいぜ。入力したデータがオジャンになって、耳から煙吹いてっから」
「うっそ、今更?」
アレクシスは、腕時計を確認した。時刻は、午後五時前のはずだ。
「何の入力やってるか知らないけど、今日中に上げるのは諦めた方がいいんじゃないの? もうすぐ定時なのに」
「だろ? そう思って逃げてきた」
いたずらっぽく舌を出す。なり、アレクシスは吹き出した。
「相変わらずねー。ラスがそんな状態なら、今からあたしも上がるし、食事でも行かない?」
「いいねー、って言いたいトコだけど、悪い。先約があるんだ」
肩を竦めて答えると、アレクシスはその鈍色の目を瞬いた。次いで、その顔が意地悪く笑み崩れる。
「エレンちゃんとデート?」
「……うるさいよ。じゃ、お先」
クスクス、と小さい笑いを挟んだ「お疲れー」というアレクシスの声を背に、ティオゲネスは本部を出た。
デート、なんて言われると、未だにむず痒い。
組織の崩壊後、同じ孤児院で過ごしていたエレン=クラルヴァインとは、紆余曲折を経て、世間で一応『恋人』と呼ばれる関係にはなっている。だが、想いを確かめ合ったあと、特にコレと言って、彼女との間にキス以上の何かがあったわけではない。
彼女が、トラブルに突進、もしくは吸引して、その面倒事をティオゲネスが収めるという図式も、相変わらずだからだ。
両想いになる過程で巻き込まれた事件で、彼女自身、死にかけたこともあるというのに、こちらも学習していないらしい。
「……うわ、いけね」
腕時計に目を落として、覚えず呟く。
エレンとの待ち合わせは、午後五時だ。彼女と落ち合ったあとは、IOCA――国際孤児保護協会の分館を訪ねる予定で、つまり、アレクシスの言うデートなんてモノではない(もっとも、彼女にそう言えば、『一緒に外歩くんでしょ? やっぱりデートじゃない』と返ってきそうだが)。
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