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「何だよ、大声出すなよ!」
大慌てで振り返った視線の先にいたのは、待ち人の、ティオゲネスだった。自分のほうがびっくりした、と言わんばかりに、目をいっぱいに見開いている。宝石店に並ぶ、澄んだ翡翠を思わせる瞳が、文字通りまん丸になっていた。
「だって、いきなり後ろから叩かれたら誰だってびっくりするわよ!」
何だか分からない気恥ずかしさに、逆ギレするように叫んでしまう。
対してティオゲネスは、悪びれる様子もなく、丸くしていた目を、今度は胡乱げに細めた。
「叩かれる直前まで気付かないほーが鈍いんだろ」
「いー加減、自分基準で言うのやめてよ! ティオの気配探知能力のほうが異常なの!」
「そうか? フツーだろ……って、ところでお前、何持ってんだ?」
「え?」
覚えず、抱え込むように抱き締めていた鞄へ、改めて視線を落とす。
「ああ、コレ。今、ここで見つけたの。ベンチと鉢植えの間に置いてあって……忘れ物かな」
途端、今度は彼の眉根が寄った。
「何よ、ティオ。何か、百面相みたいになってるよ?」
美人が台無し、なんて言おうものなら、そのあと何を言い返されるか分かったものではないので、辛うじて呑み込む。
しかし、言わなくても、鞄を拾った時点で説教必至だったと気付いたのは、直後のことだ。
「お前なぁ。何だか分からないのに、迂闊に拾うとかバカなのか? 学習しろよ、全く……」
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