彼女は飛べない

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彼女は飛べない鳥である。純白のごとき白き翼がその背にあるのに、なぜか彼女は空を駆けることが不可能だ。故に、いつも巣となる木の家より、彼女は暇をもて余したように空を見上げている。 いつかあの空に、飛び立てる日が来るように。 そんなことを祈りながら。 金糸のような美しき髪が、簡易的な窓から入ってくる風に吹かれ、揺れていた。共に彼女の身に纏う、翼と同じ白いワンピースも、美しき波を描きながら揺れている。 なんと美しき光景か。 すべてがすべて輝かしく思える姿に、遠くを過ったハエが「ほう……」と感嘆の息を吐く。そんなハエに片手を振れば、驚いたように、ハエはすぐさま飛び立ってしまった。 「……お外はキレイね」 はぁ、と溜め息を吐き、彼女は告げる。 「どこまでも広がる青。この家を囲む緑。家の中とはまた違う空気に、楽しそうな動物たちの話し声。ああ、良いな。私もお外へ出てみたいわ」 項垂れるように肩を落とし、頬杖をついた窓辺に額を預ける。そうして、なぜ自分はこの巣の中から出れないのかと、苦々しくも考えた。 そんな彼女の内なる疑問に、答えるのは居候の芋虫だ。 「仕方ないよ、鳥娘。外には蜘蛛の魔女がいる。美しき君が一度外へと踏み出せば、その甘き命はすぐにでも魔女のモノとなるだろう」 なんとなく、小洒落ているな、と思える服装の彼は、そう言って、真剣な表情で白いカップにあたたかな液体を注いでいた。 黄色とオレンジ。二つの色が程よく混ざりあった、少し透明な色合いの液体だ。 くん、と鼻を動かせば、鼻腔を甘い香りがくすぐってくれる。 芋虫の空いた片手には『はちみつティーの作り方』と記された本が持たれており、カップと本を交互に睨みながら作業を進める姿が、なんだか不審だ。 適当な箇所で結ばれた癖のついた緑色の髪が、芋虫の動きと共に左右に揺れる。目で追うことすら疲れるそれから目を離せば、共に、「できたよ」と彼は告げた。 戻したばかりの視線を再び芋虫へと向ければ、のろのろと近づいてくる彼から、白いカップが差し出される。湯気のたつそれは、心も体も温まる、とても美味しいはちみつティーだ。
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