彼女は飛べない

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「できるだけ急いでね、芋虫さん!」 足の遅い彼に聞こえるように、少しばかり大きめの声をあげ、鳥娘は言った。まだわりと近くにいたのか、そこまで遠くない位置から「わかっているよー!」と返事が飛んでくる。 律儀な芋虫だ。 鳥娘はふん、と鼻を鳴らし、窓の近くに腰を下ろした。少しでも腹が満たされたので機嫌はいいが、芋虫の態度は気にくわない。なんだか逃げられたようで、気分が悪いのだ。 「……早くしないと、あなたも食べちゃうんだから」 ぽそりと呟き、空を見上げる。 青い空。白い雲。 優雅に翼を広げて駆け回る、鳥娘と同じ仲間たち。 食事を探して飛び交っているのだろう彼らを見つめ、鳥娘は静かに窓を閉めた。己が獲物に、手を出させないようにするために。警戒する彼女の顔は、少々険しい。 「……私は飛べない」 飛んでしまえば戻れない。 微笑む彼女は、手にした頭蓋骨を撫で付けながら、空を見上げて口を開いた。 「翼があるのに、飛べない鳥なの……」 優しくもドジな彼を殺させないために、彼女は今日も、そこにいる。 巣という閉ざされた空間で、翼をたたみ、焦がれるように、青い空を見上げながら──。
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