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「何、ムスッとしてんの?」
「っ!!?」
そんなことを考えていたら十五センチ程の目の前に突然現れた伊勢谷先輩の顔。
驚きと動揺で今日一番大きく心臓が跳ねて、私は後ろのシートに接着剤でくっついたかのようにピタリとくっつく。
だが隣から覗かれてしかも目の前に居るので、それでも離せた距離はプラス十センチ程。
至近距離には変わりない。
「ムスッとなんかしてませんっ」
「でも変な顔してた。もしかして俺が明日からいないの、寂しかったり?」
口角を上げる伊勢谷先輩。
ここで「寂しいです」って言ったら、どうなるんだろう。
先輩はそれを本気と捉えるのだろうか。
でも冗談で言っているのに本気で返したら引かれるかもしれない……。
「……痴漢から守ってくれる先輩が居ないのは不安です」
『寂しい』の言葉を避けて当たり障りのない返しをした。
本当は、「寂しいです」と言える勇気が無かっただけだけど……。
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