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雪女との約束
将太は、話した。
病床を離れられない彼女、愛菜のこと。
自分の撮影した風景の写真を見るのが彼女の一番の喜びであること。
そんな彼女の喜びが自分の幸せだから、雪山に『雪のダイヤモンド』の写真を撮りに来たこと。
そんな話をする将太は何故だか表情が輝き活気が戻っているように見え、そんな将太を見ると雪女は……凍りきっていた筈の心から溶けていってしまいそうな、初めての感覚を覚えた。
「これが……愛菜なんだ」
将太は話の最後に愛菜の写真を見せた。
その写真を見た雪女は、艶やかな目を細めた。
「この女……直に死ぬぞ」
「死ぬ?」
「私には分かる。この女、もうすぐ死ぬんだ」
雪女は、写真の彼女を見ただけで直感した。
しかし、将太は即座に言う。
「絶対に、僕が死なせない!」
「えっ?」
「愛菜は、僕の全てなんだ! だから、僕が死なせない! 絶対に僕が守り通してみせる!」
将太の瞳は決意の炎を灯した。
すると、どうだろう。
写真の中の愛菜は一気に活気を取り戻したのだ。
それと同時に……
『ドクン』
雪女の胸に、今まで響いたことのなかった音が響き渡った。
雪女は、自分の初めての感情に戸惑う。
しかし……自分でも予想していなかった言葉が口から出た。
「私と、約束するか?」
「約束?」
「その女を絶対に守り通すと、お前は私に約束するか?」
すると、将太は真っ直ぐうなづいた。
「絶対に、約束する」
雪女はすっと目を閉じ、扉を開けた。
「すごい……」
将太は、信じられなかった。
降り続く雪は一つの経路だけ避け、道ができていたのだ。
「行け」
雪女は、初めて感じる自分の複雑な想いを抑えて言う。
「ただし、お前が約束を破ったら……その女が死んだら、すぐに私はお前を氷の塊にする」
「もちろん」
将太は改めて決意を語る。
「絶対に彼女を死なせない!」
すると、雪女は今までに見せたことのない純粋な顔で笑った。
その時の雪女の笑顔が今までで一番美しくて……将太は、気がつくとカメラのシャッターを押していた。
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