雪女と将太

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雪女と将太

見渡す限りの銀色世界。 滔々と降り積もる粉雪。 その雪女は、妖艶さを纏い、真っ白な大地を歩く。 この世のものとは思えないほど白く美しい彼女は、散りばめられた粉雪の中、一人ひっそりとほくそ笑む。 今までどれほどの馬鹿な男が、私に跪き氷の塊になってきただろう。 思い出すだけで冷んやりとした宙に浮くような快感に溺れる。 この雪山で遭難する不運な男達。 しかし、どんな男でも私を見た途端、誰もがその不運を吹き飛ばす恍惚の表情を浮かべ、自ら望んで私に跪き、接吻し、氷の塊となるのだ。 雪女が罪悪感などという感情を持ち合わせるかは定かではないが、もし有するとしても、自分の行いにそれを感じる筈もなかった。 なぜなら、雪女と接吻した全ての男が、『この世に思い残すことがない』とでも言わんばかりの幸せに満ち足りた表情で氷の塊になるのだから。 さて、今日もあの山小屋に阿呆が一人迷い込んでいる。 あいつも、私の美しさに跪き、氷の塊のコレクションの一つとなることであろう。 雪女は、そう信じて疑わなかった。 将太は、山小屋の片隅で小さく蹲り、ガクガクと震えていた。 手には、一つのカメラを握り締めている。 この雪山では、世にも美しい『雪のダイヤモンド』を見ることができるという。 それをカメラに収めるために、将太はこの雪山を登ったのだ。 『雪のダイヤモンド』を見て生きて帰った者はいない、との言い伝えも知っていた。 しかし、将太はどうしてもカメラに収めたかったのだ。 自分の彼女……愛菜のために。 そう、病床から離れることができず、この世の美しい物を見ることも触れることもできない愛菜のために。 病床を離れられない彼女は、いつも将太の撮影した風景を見て目を輝かした。 色とりどりのお花畑、青々とした木々、赤く染まった紅葉。 彼女は、その風景を見ることが一番の楽しみだった。 だから、将太は自分の身に少しばかり危険が及ぼうとも、必ず『雪のダイヤモンド』を撮影するとの意を決して雪山に登ったのだ。
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