隣席の君

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 そうだ。今は授業中だった。 ゴチン。  いかにも痛そうな音がして、教科書の角で小突かれた彼女を僕は口元押さえながら肩を竦めて見ていた。  後頭部に鈍い衝撃を受けた彼女はゆるゆると顔を上げて、長い睫毛の乗ったまぶたを持ち上げた。そしてぼんやりと焦点の定まらない目で、彼女は辺りを見渡した。その仕草がどうにも優雅で、色気があるものだから、叱られているこの状況と一致しなくて僕は毎回可笑しくって噴出しそうになってしまうのだけど、手で口元を押さえて何とかこらえるようにしている。  僕が必死の思いで笑いをこらえていると、坂上さんが授業中に眠っているのはいつもの事なので、教師もなれた様子で教卓の方へ戻っていく。  時と場合を選ばずいつ何時でも眠ってしまう美くしくも間抜けな彼女はまさに現代の、眠り姫。  僕はひっそりと心の中で”スリーピング・ビューティー(眠り姫※正しくは眠れる森の美女)”と、あだ名をつけて呼んでいた。
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