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柑奈は、短い横断歩道の向こう側、僕から見て左側に建ち並ぶラーメン屋、居酒屋の隣にある、ナイトクラブの前に友人の菜々子ちゃんと立っていた。
僕の姿を見るなり、片手に持った缶ビールを一気に飲み干し、菜々子ちゃんに支えられながら一緒にこっちへと歩いて来る。
「ごめんね、菜々子ちゃん」
柑奈の腕を持ちながら、愛想よくそう言った。
僕と同じ、175センチもある長身の菜々子ちゃん ――タイトなジーンズと黒の革ジャンというシンプルな格好ながら、とても同い年とは思えない大人びた雰囲気を醸し出している―― は、背の低い柑奈の頭上で、少し困ったような顔をして、首を振った。
誠くんだけじゃ大変だろうし。そう言ってから、柑奈に顔を近付ける。
「優しい彼氏さん......、でよかったね」
意味深な言葉の区切り方、声のトーン。柑奈に囁きながらも、切れ長の目はこっちを向いている。ミステリアスな彼女に少しドキリとしながらも、動揺を見せずに笑い、この空気を冗談に変えた。
鼻先を赤くしたまま、眠たそうな目をしている柑奈は、僕の右肩にダラしなくもたれかかり、くるまぁ? と間延びした声で訊いて来た。
耳に口を近付け、そうだよ、と極端に滑舌よく答えてから、菜々子ちゃんにもう一度礼を言い、3人で、僕の車へと向かった。
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