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つき始め
――それは突然突きつけられた残酷な現実だった。
それが起きたのは大体二週間ほど前。僕と彼女が進路について話していた頃。
彼女のお父さんを見て憧れていた僕が、「僕は医者になる」なんて戯言を言ったら、彼女が「じゃあ私は看護師」って言った時分。
訳を聞こうとした瞬間、その一瞬まで普通に接していた筈の彼女が、突然僕の目の前で倒れた。
その刹那に頭が真っ白になって、周囲の人が救急車を呼んでくれるまで僕は何もできなかった。
到着した救急車で、すぐさま彼女は自身のお父さんが院長をやっている病院に運び込まれたけれど、診断の結果は残酷だった。
「ステージⅣ。末期の膵臓がん」
病室で寝たきりとなった彼女から聞かされたとき、冗談かと思った。
だって、本当につい最近まで何ともなかったのに、分かった時には手遅れだなんて信じたくはなかった。
「治せないの?」
「ほぼ不可能。知ってるでしょ?」
うんと頷くのが怖かった。
――病状の進行が早くて、早期発見が困難とされる。
なんてドラマや小説に感化されて聞きかじっただけの知識。こんなこともあるのかとどこか他人事だった筈の病気。
それを彼女が患ってしまっているだなんて、信じたくなかった。
「あーあ、私も死んじゃうのかなー」
諦めたように、そして哀しそうに笑う彼女が酷く痛々しくて、僕には掛ける言葉が見つからなかった。
「ねえ、今日の天気を教えてくれない? ここからじゃ窓が見にくくてさ」
だからせめて青空をイメージして心穏やかにして欲しくて、首を動かすこともままならないらしい彼女に嘘をついた。
「いい天気だよ」と。
――それが梅雨入りしたばかりの、暗雲立ち込める暗い土曜日だった。
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