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声帯
四月の終わり頃、私は朝早くからおばあちゃんに電話した。
と言っても、午前七時なんて、お年寄りには早くもなんともないかもしれないけど。
七回目のコールで、おばあちゃんは電話に出た。
「もしもし、おばあちゃん? 私、私」
「サオリちゃんかい? どうしたの、こんな時間に」
「う・・・・・・うん」
少し胸が痛む。
でも、おばあちゃんのためだ、と、私は思っている。
「あの、ね。私、事故っちゃって」
「ええ?それで、サオリちゃん、怪我はないのかい」
「う、うん。私は、大丈夫、なんだけど」
動揺してる体で、途切れ途切れに声を出す。
「ぶつけた相手が、その、怖い人で、保険にも入ってないって。それで」
「警察には行ったのかい? お母さんには?」
「こんな事、お母さんに、言えないよ。それに、警察に言ったら、ただじゃおかないって、お、脅されて」
おばあちゃんの声は、微かに震えている。
「それじゃあ、どうするんだい」
「相手の車がね、高級車で、その、し、新車にしろって。事故車には、価値がないとかって言われて」
「弁償しろって言ってるんだね?それで、その車、いくらするんだい」
「さ、三千万・・・・・・」
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