声帯

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 翌日、待ち合わせの場所に行くと、先輩は私の顔を見止めて手を振った。  私は、気の進まないまま、ゆっくりと先輩の向かいの席に腰掛けた。  目の前には既に、私の好きなムースフォームが置かれている。 「カオリさ、オレオレ詐欺って、知ってるよね」  相変わらずこの人は、いきなり本題を切り出してくる。  周りはいつだって、このいきなりの本題に付いていけないことが多かった。  私は嫌な予感がして、無言のままその話を聞いていた。 「単刀直入に言うわ。あんた、『なりすまし』やってくんない?」  なりすましって、なんだろう。  私は言葉にすることなく、ただ首を傾げた。 「オレオレ詐欺ってさ、孫息子がおばあさんにってパターンじゃん? でもさ、意外とおじいさんって引っ掛からないのよ。そこで考えたの。おじいさんを騙すには、孫娘が良いんじゃないかって」  いや、そんな事よりも、この先輩は、振り込め詐欺グループの一員だったのか。  こんな身近にそんな人がいるという事が、私にはショックだった。
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