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家に上がった貴哉は、いつもそうしていたように、リビングの低いラブソファーの真ん中に、どっかり腰を下ろした。
「お、ナポリタンじゃん。うまそー。オレも食べたいなー。腹減ってんだよね。ちょっと食ってい?」
「あー、ちょっと待ってて」
私は泣いていたことを悟られないように、出来るだけ普通に返事を返した。
「作り過ぎちゃって余ってるからお皿に盛ってくるよ。あ、でも」
「ん?」
「なんかね、ちょっとしょっぱいかも」
「そなの?でも全然いいや、ちょうだい」
貴哉は一体、何の用で訪ねて来たんだろう。
今更どうして?
そんな疑問を抱えつつキッチンに向かい、少しだけ加熱し直したパスタを皿に盛ると、再びリビングへ戻った。
「いただきまーす」
「どうぞ」
先程まで座っていたソファーを貴哉に占拠されてしまっているので、私は傍らのフロアラグの上にぺたんと腰を下ろす。
ぱくり、と大きな口を開けてナポリタンを一口食べた貴哉は、苦笑いを浮かべた。
「あー、しょっぺーわこれ」
「でしょ?無理に食べなくていいよ」
「なんで?全部食うよ」
「いいよ、全然美味しくないでしょ?」
「オレ、愛実が作ったものは残さないよ?」
「・・・・・・」
散々泣いたはずなのにまた涙が溢れそうになって、私は慌てて冷たいお茶入れるね、と顔を逸らしながら立ち上がり、キッチンへと踵を返す。
その私の腕を、貴哉が掴んだ。
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