56人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・なに?」
涙を堪えながら、何事もないかのように、私はできるだけ無機質な声で返事を返した。
「あのさ、愛実に渡したいものあるんだけど」
「渡したいもの?」
私が訊くと彼は私の手を離し、パーカーのポケットをまさぐった。
「はい、これ」
「?」
貴哉が差し出したのは、綺麗にラッピングされた立方体の小さな箱。
「とりあえず開けてよ」
そう促され、私は箱を受け取るとラッピングを丁寧に剥がした。
「──!・・・なんで?」
箱には私が大好きなブランドのロゴが入っており、開けずとも中身は容易に想像できた。
「なんでって、今日誕生日だろ?」
「あ」
連日の仕事の忙しさで、誕生日のことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。
だけど、貴哉、誕生日プレゼントなんて。
私達、もう別れたのに。
少し震える手で箱をゆっくり開けると、私が随分前に欲しいと言った指輪が入っていた。
最初のコメントを投稿しよう!