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「でも、だって・・・これ、すっごく高いよね?貴哉、お金ないって・・・」
「あー」
彼はポリポリと頭を掻いた。
「バイトして金貯めてたから」
「えっ?」
「ほら、オレ毎週3日くらいいなかったじゃん?実は夜中バイトしてたんだよね、実家の近くの工事現場で」
「夜中って・・・まさか会社と掛け持ちで?」
「あー、うん」
・・・そう言えば貴哉は、最近やけにダルそうにしていた。
けれど私はそれを、私に対する興味がない態度として受け取っていたのだ。
「たかちゃん・・・」
ねえ、私はどうしてこんなに馬鹿なの?
どうして何も見えなくなってしまっていたんだろう。
こんなにも大切にされているのに。
「ねえ、愛実」
その場で泣き崩れた私の頭を、貴哉が優しく撫でた。
「・・・?」
「知ってる?愛実が欲しがってたこの指輪、ペアリングなの」
「・・・知ってる」
「オレもこれ、指につけていい?」
そう言いながら、彼は首元のネックレスのチェーンをパーカーから引っ張り出した。
そこには、私にくれたものと同じデザインの指輪が通されていた。
「あのさ、これからは愛実のこと、もうちょっと大事にするし、たまにはデートも連れてくからさ・・・だからオレと、もっかい付き合わない?オレお前いないとかム」
貴哉が言い終わらない内に、私は彼に抱きついた。
「・・・デートなんかいらない」
「え?」
「たかちゃんがいれば、他になんにもいらない」
涙でぐちゃぐちゃな顔でそう言えば、彼は私の唇にそっと口づけを落とし、
「このままイチャイチャしたいんだけどさ、とりあえず腹減ってるから、このしょっぱいパスタ食べちゃっていい?」
まるでいたずらっ子みたいな顔で笑った。
もしかしたら私たちは、この先も同じことを繰り返すかもしれない。
私はまた、気持ちを見失いそうになるかもしれない。
でも、その時は、今日のしょっぱいパスタを思い出そう。
そしたらきっと、大事なことに気づけるから。
~完~
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