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「ありがとうございます」
「僕こそ。描かれる側って経験がなかったから……いろいろわかって良かった。緊張もするし、落ち着かないし、短時間でもじっとしておくのは大変だし……」
人見さんは、誰かを愛おしんでいることがありありとわかる顔をした。きっと奥さんだ。私はうらやましくなった。
「描いた絵をみせて」と言われた。スケッチブックを渡す。
人見さんがどんな絵を描くのかも知らない。だけど、目は確かだと感じる。
どう思われるのか少し怖い。
「君の目に、僕はこう映るんだね」
絵から目を離さず言った。
「鏡をみても、ビデオをみても、実際に、他人の目に自分の姿がどう映っているのかは確認できない。最近は3Dプリンターなんてものがあるけれど、それでも、まだまだだ」
私は頷いた。写真を見て描いた絵はすぐわかる。
「再現できるのは絵を描くものの中でも、特別な目を持った一部だけだ」
『特別な目』
母に言われたことがある。そう言った日の母の顔が忘れられない。怖かった「なぜもっと描かないの」と声をあらげ、私の頭上に手を振り上げて、そのまま動かなくなった。
人見さんが私の名前を呼んだ。
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