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「会いたいんやけど……」
抱きしめて欲しい。温もりを感じたい。私が、結城君が、ちゃんと生きていることを確かめ合いたい。
私は、地下鉄の駅に向かって走り始めた。 結城君の家の最寄り駅に着いた。改札を出たところで待っていてくれた。
「めっちゃ会いたかった」
結城君が笑う。目の前にすると恥ずかしくて「私も」と言えなかった。
家まで、二人で並んで歩く。
「今日美術館に行ったんやけどね」
「あっ、前、邪魔したもんな……」
私は顔を横に振る。
「中にものすごく綺麗な人がいて、その人を描くことに決めてん」
「へえ、楽しみやな」
「大きな絵にするから、今度、キャンバスを作るの手伝ってもらえる?」
結城君が目を輝かせる。
「何それ? おもろそう」
結城君が楽しみにしてくれる。嬉しかった。
母のためでもない。母に認めてもらうためでもない。自分の意志で描く最初の絵になる。
描き上がる前からみえている。
私が、目を奪われたあの瞬間を、キャンバスに焼き付ける。
描きたくてうずうずしているが、準備も時間がかかる。
もうS120号で描くと決めている。
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