印象、日の出

16/40
前へ
/40ページ
次へ
「会いたいんやけど……」  抱きしめて欲しい。温もりを感じたい。私が、結城君が、ちゃんと生きていることを確かめ合いたい。  私は、地下鉄の駅に向かって走り始めた。 結城君の家の最寄り駅に着いた。改札を出たところで待っていてくれた。 「めっちゃ会いたかった」  結城君が笑う。目の前にすると恥ずかしくて「私も」と言えなかった。  家まで、二人で並んで歩く。 「今日美術館に行ったんやけどね」 「あっ、前、邪魔したもんな……」  私は顔を横に振る。 「中にものすごく綺麗な人がいて、その人を描くことに決めてん」 「へえ、楽しみやな」 「大きな絵にするから、今度、キャンバスを作るの手伝ってもらえる?」  結城君が目を輝かせる。 「何それ? おもろそう」  結城君が楽しみにしてくれる。嬉しかった。  母のためでもない。母に認めてもらうためでもない。自分の意志で描く最初の絵になる。  描き上がる前からみえている。  私が、目を奪われたあの瞬間を、キャンバスに焼き付ける。  描きたくてうずうずしているが、準備も時間がかかる。  もうS120号で描くと決めている。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加