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結城君が「あかんやん!」と言いながら、私の腕をとった。顔を隠したまま腕をひかれて歩く。
結城君が鍵をあけた。後ろについて、部屋へ入った。ワンルームだから、小さなキッチンの向こうには、すぐにベッドがある。
「あったかいもんでも飲む?」
結城君に訊かれて、驚く。顔を上げたら目があった。
ばつが悪そうな表情だった。
「ごめん、いつも俺、入ったらすぐ……そうしないと不安やったというか……百音は、俺のこと興味なさそうやけど、許してくれるなら大丈夫かなと……」
私は私で、体だけを求められていると思っていた。お互い、少し臆病だったのかもしれない。
「カフェモカか、抹茶ラテか、ミルクティ……スティックに入ったやつ」
私はミルクティを選んだ。
本当に、ここに来れば、すぐに体を重ねて、遅くならないように帰るだけだった。順を追ってやり直していくのも悪くない。
出てきたカップが猫の柄なのも意外だった。結城君は渋いだるま柄の湯飲みで飲んでいる。
結城君が建築士を目指しているのは友達の彼氏から聞いている。部屋にはそういう関係の本が何冊もあった。
何にも知らないのは、ある意味興味をもっていなかったせいだ。温もりだけを求めていたのは私の方だったかもしれない。
「会ったばかりの頃、紅葉狩りに誘ってくれたやんか……なんで?」
「なんでって、できるだけ断られなさそうなんを考えて……」
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