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「百音って、あんまり喜んだり怒ったりしないやろ。すごく冷めてそうやのに、時々、じーっと、何かを見つめるやん。紅葉を見に行ったときも仁王門を食い入るように見とって。俺は、釘を使わずにあれだけ屋根を支える構造に感動してたんやけど。この子は何を思ってるんやろって……」
人が何を考えているかなんて、こうやって聞かせられなければわからない。
「私は色を見てたん。何百年もそこにあって、いろんな季節や天候……方角によっては日の当たり方も違って。自然に生まれたグラデーションが綺麗やったから」
同じものを見て全く違うことを考えていた。それでもあの時、仁王門の前に三十分近く並んで立っていた。
その次誘われたとき、別に抵抗なく応じたのは、あの時間があったからだ。
「百音の絵をみて、全然表には出さないのに繊細なんがわかって、勝手に俺が守りたいって思って、それがすぐに、独り占めしたいって方向に変化して……」
こんな面白くもない私を独り占めしたいと思ってくれる人は、他に居ない
結城君は、人に合わせられないのを知っていても、気になればいくらでも眺めてしまうのを知っていても、私を嫌がらない。
絵を描けなければ心配はしてくれるけれど、描いた絵を観てがっかりはしない。
きっと、描くのが嫌になってやめたとしても、責めないだろう。
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