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どの絵を観ていたのか気になった。『雪の効果、日没』だった。雪に覆われた街並、樹が黒い枝を伸ばす。日没の柔らかな光を雪が反射して、微妙な色を作り出す様が描かれている。
涙を流すような絵には思えなかった。
周りも心配げにしている。隅に休憩スペースを見つけた。
「少し休んだ方が……移動しましょう」
私はスケッチブックをバッグにしまった。
椅子に連れて行く。座ると、一度深呼吸をして「驚いたでしょう、すみません」と言った。隣に座る。
「あの絵、モネは僕と同じ年齢くらいで描いて……モネにはそれから五十年も時間があって……」
「そうなんですか……」
「一人で来てよかった」
ハンカチで顔を拭っている。少し落ち着いたのか顔を上げた。間近でも綺麗な人だった。私の方を向いて、微笑んだ。
「絵を描くんですね」
スケッチブックがバッグからはみ出していた。無断で描いたことに気がひけて、慌てて隠す。
「学生さん?」
「芸大の二回生です」
私の言葉を聞いた途端、その人が嬉しそうな顔をした。
「二十歳?」
「はい……」
「僕の奥さんと同じだ。でも、君は大人っぽいなあ」
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