印象、日の出

7/40
前へ
/40ページ
次へ
 どの絵を観ていたのか気になった。『雪の効果、日没』だった。雪に覆われた街並、樹が黒い枝を伸ばす。日没の柔らかな光を雪が反射して、微妙な色を作り出す様が描かれている。  涙を流すような絵には思えなかった。  周りも心配げにしている。隅に休憩スペースを見つけた。 「少し休んだ方が……移動しましょう」  私はスケッチブックをバッグにしまった。  椅子に連れて行く。座ると、一度深呼吸をして「驚いたでしょう、すみません」と言った。隣に座る。 「あの絵、モネは僕と同じ年齢くらいで描いて……モネにはそれから五十年も時間があって……」 「そうなんですか……」 「一人で来てよかった」  ハンカチで顔を拭っている。少し落ち着いたのか顔を上げた。間近でも綺麗な人だった。私の方を向いて、微笑んだ。 「絵を描くんですね」  スケッチブックがバッグからはみ出していた。無断で描いたことに気がひけて、慌てて隠す。 「学生さん?」 「芸大の二回生です」  私の言葉を聞いた途端、その人が嬉しそうな顔をした。 「二十歳?」 「はい……」 「僕の奥さんと同じだ。でも、君は大人っぽいなあ」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加