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さっき、あの絵を描いたモネと同じだと言っていたから、三十代半ばのはずだ。綺麗な人だし、若く見えるけど、二十歳の奥さんがいるのには驚く。
「二人で京都旅行へ来ていて……ただ、ここだけは遠慮してもらった」
少し遠くをみるような目をした後、目を閉じてため息をついた。
「せっかく出会えたし……人見といいます。君は?」
名前がよく似合っている。私は、この場所で名乗るのを少し躊躇う。
「中川……も……ねです」
恥ずかしくなって俯いた。
「名前は、ひらがな?」
「百の音です」
「素敵な名前だ」
私は顔をあげた。不思議な人だ。素直に受け取れる。
「モネからとって百の音かあ、絵と音と……」
難しい顔で考え始めた。
「母が美術教師で、音が聞こえる絵を描きなさいって……」
人見さんは感嘆ともため息とも取れる声を出した。
「描きたいなあ。音が……歌が聞こえる絵……」
「人見さんも絵を描くんですか」
ゆっくりと頷いた。
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