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「百音ちゃんは、どんな絵を描くの?」
そう言った後、人見さんは「ごめん、なれなれしいね」と笑った。かまわないと伝える。
「実は、絵が描けなくなってて……もう一度『印象、日の出』を観たら何か描ける気がして来たんです」
「『印象、日の出』観たの? 先月まであったんだってね。羨ましい。印刷じゃわからないことあるよね」
確かにキャンバスの大きさも実際観ると想像と違う時がある。ゴッホ展に行ったときは、小さい絵が多いのに驚いた。
「描けないのはつらいね」
「もう大丈夫です。さっき、急に絵が描きたくなって、手が動いたので……」
「どんな絵を描いたの?」
まさか自分が描かれたとは思っていないだろう。
「ごめんなさい。勝手に、人見さんを描きました」
人見さんは目を見開いた。
「みせて!」
期待されている。断れずにスケッチブックを開いて渡した。
「すごい……ほんの数分だったはずなのに……」
じっと私の絵をみている。
「まだ若いのに人の何倍もの努力を積んできたんだね」
「母に描かされただけです」
「じゃあ、お母さんに感謝しなきゃね」
「母の夢を押しつけられただけです」
つい反論してしまう。人見さんが顔をあげた。
「絵を描くの嫌いなの?」
「好きですけど……」
「うまく描けるのに越したことないじゃない?」
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