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「本屋に行くんだけど、一緒に来ませんか?」
誘いに乗って着いていくことにした。ドアのガラス越しに、どんよりとした曇り空が見える。
さっき、あんなに陽が眩しかったのに。
重いドアを押した拍子に、彼の白いシャツが強風をはらんで膨らむ。
・・・ずき。心臓が、止まる。
「どうしたの?」
立ち止まってしまうあたしに気づき、振り向く。
「ゴミ、入っちゃったみたい」
慌てて目をこすって取り繕う。
「あ、だめだよ。そんな強くこすったら。
・・・ほら、目が赤くなる」
こすっているうちに、本当に泣けてきてしまったのだ。
心臓がずきずき踊り続けている。目が霞んでくる。
あのシャツに触れたい。そう感じてしまった一瞬が恥ずかしくて消えてしまいたかった。
この想いは、罪なんだろうか。
書店に入ると、浅木は写真・芸術の書棚の前を、目的の書名を口にしながら歩き回っている。
なのに、全然違うタイトルの本を手にしては、幾つもあたしに薦めてくれる。
さっき、舗道で泣き出してしまったあたしを、気遣ってくれているのか。
高い場所にある本を取ろうと伸ばした腕が、あたしの頭に、ごつんと当たった。
「たっ」
痛さよりも、びっくりして思わず声をあげてしまった。
「ごめん、ごめん」
ぶつかったその箇所の髪を、くしゃっと撫でてくれる、大きな手。
さりげないその動作に、あたしの心臓がまたストップモーションをかける。
あたしのこんな混乱を、このひとは考えてみもしないのだろう。
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