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駅に滑り込む車窓に糸をひき始めた大粒の雨。
駅から2分のアパートの部屋に駆け込む頃には、
シャワーの後のように髪がぐっしょり濡れていた。
せっかく、あのひとが触れた痕なのに。熱いシャワーを浴びなおしながら、ひどくせつない気分になる。
窓の外の絶え間無い雨音。
エアコンの効いた部屋の空気。
やかんからしゅんしゅん沸きあがる、湯気の白い色。
茜色の手焼きのカップを選んだ。二年前、自分で焼いた、両手にちょうど合う大きさの、手びねり。
あのひとからもらったばかりの茶葉に、熱い湯を注ぎ、ベッドに腰掛けて口にした。
意識が、グレイの空気の中を、ゆぅるりと泳ぎ始める。かりんの薫りの湯気が頬を優しく撫でる。
さっき、泣き出しそうな空の下で見送った、浅木の背中が恋しくなる。
次はいつ会えるのだろう?
あんなに明るい目を持つひとなのに、何故後ろ姿があんなに寂しいのだろう?
会うたびに解らなくなる、大人の男の人。
呼びかけてくる声。何かに触れる手。
仕草のひとつひとつで、あたしの心は、せつなさと幸せの両極端を猛スピードで往復する。
このままでは、あたしは狂ってしまうかも。
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