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 寒い。肩だけがぎゅうっと締め付けられるようにさむい。 泣きながら立ち上がり、エアコンのスイッチを切る。 声を上げて泣いても、誰も見ていない。誰もいない。誰も見ていてくれない。  誰か、助けて。誰でもいい。あたしの涙を笑い飛ばして。 他人がいれば、弱みを見せまいと気丈に振舞えるかもしれないのに。  電話の音で目を覚ますと、外は真っ暗だった。 時計はまだ午後3時半なのに。 「寝てた?」  睡の明るい声。まるで目の前に突然現れるような、はっきりした声が、 半端な眠りの不快感を薙ぎ払ってしまう。 「わかる?」 「俺、美森のことなら、離れていても なーんでもわかるんだよね。それに。 ・・・お前、泣いてんだろ?」  思わず胸を押さえる。 いつも、そうだ。彼は絶妙のタイミングで、心の隙に入り込む。 「図星でしょう? そんな気がして来たんだ。じゃ、すぐ行くからさ」 「すぐって、睡、あなた今どこにいるの?」 「駅前の公衆デンワ」  この嵐の中? 当たり前のように言うのね。 「いい。だって昨日も来てもらったばかりじゃない」 「いーのいーの。気にしない。俺も美森に会うの嬉しいもーんね」 「だめだよ!」  思わず語気が荒くなる。睡の、本当に驚いたような息の音が聞こえた。 「・・・甘えすぎちゃいけないと思うの、睡に」 「だから、気にするなよって」 「だって・・・だって、あたし、浅木さんのこと考えて泣いてるのよ」  黙りこむ睡。無言でじっとあたしの次の言葉を待っている。 「不純だよ・・・あたし。汚れてるよ、卑怯だよ、こんなの」
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