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⑤(結)
昇りつめた後に落ちる眠りに、必ず訪れる短い夢。
いや、一瞬の間に頭をよぎるイメージなのかもしれない。その位あやふやなヴィジョン。
暗闇に横たわる、大きな河の岸辺で、睡と二人、手をつないで立っている。何かが、流されていくのを見送っている。
目に見えないのに、わかっているのだ。あの濁流の中に、あたしの、浅木への想いが、今、飲み込まれていく。
死んでゆくあの恋が流されていく、その先は、きっと海。
あたしの手を握る睡の手に力がこもる。
出来ることなら。あの恋を追いかけて一緒に海まで流されてゆきたいのに。
そういうあたしの想いを知っているからこそ、睡はあたしの手を堅く握って放さない。
あのひとへの辛い恋は、あたしの人生の上で必ず通過しなくてはならない関なのだろう。ここを抜けなくては、前に進めない。
そういう今、睡という子が立ち会ってくれていたことの意味は、いつか明確に見えてくるはず。
あたしは、睡ほど自信家じゃないから、二人の幸せな将来像なんて語れないけど。
いつか、彼と出会えてよかった、と言えればいい。
今は、とても苦しいけど。
台風一過の朝の光に、目を覚ます。
バスルームからは、睡が使っているのか、シャワーの音が聞こえてくる。
今まであたしより先に目を覚ましたことはないのに。
さすがに湿っぽいシーツが気持ち悪かったらしい。
ラジオのスイッチを入れ、シーツを剥がしにかかる。もう次の台風が発生したというニュースに、溜め息をつく。
今年の夏は、いつまでも終わらない。
あたしの夏は、いつまでも、続く。
どこか秋の気配のある、あのひとの背中に、この指が、どうしても届かないように。
どうしても、この夏を、終えられない。
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