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耳にかかる、クセのない髪を指先ですいてやりながら、考えた。
どうして、あたしはこの子を愛していないのだろう。
抱き合って眠る時、いつも、時が止まってしまうかと思うほど幸せなのに。
十も歳上の既婚者への片想いに、何故心を削り続けているのか。
あたしに惜しみ無い優しさを注いでくれる、この美しい子の為ではなく。
陽が高くなったらしい。ビルのかげから突然差し込む光が、睡の顔にサッと注がれる。
それを振り払うように顔を背け、もぞもぞと起き出す。
あたしの寝たふりに気づかず、目をこすりながらジーンズと木綿のシャツを着け、台所へと歩いていく。
コップに水を汲む音が聞こえる。
ごくごく飲み下す姿を、薄目を開けて見た。
右腕を外されたウェストが急に寂しくなった。
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