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土曜日。ポプラの並ぶ目抜き通り。
喫茶店の壁にもたれ
約束の相手を待つ。
青空が眩しすぎるので、うつむいて、石畳みに雲が流れていくのをじっと見ていた。
風が強い。爪先を綿雲が5つ通り過ぎたのを数えた時、
「田中さん」
視界に、黒い足先が飛込んで来た。
「こんにちは」
ゆっくりと顔を上げて、長身の彼の顔を視界に捉えた。
出来るだけ丁寧に挨拶の言葉を口にした。
あたしの持っている一番いい笑顔で。
このひとといられる時間を無造作に過ごしたくないから。
「中で待っていればよかったのに」
陽射しよりも眩しい、浅木(あさぎ)氏の笑顔。
「お天気がいいから、お日様に当たらなきゃもったいなくて」
嘘。
さっきのように、光の中であなたに呼ばれたかったのだ。
・・・王子様のキスを待つ、いらくさ姫のように。
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