一枚目 突然

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その女子が自分の分の昼ご飯も買って帰ってきたころには、奏は寝ていた。 「ありがとう。…それで君の名前を聞いてもいいかな?」 「私の名前は、橘 美桜。よろしく。」 「橘さん。僕の名前は上木 楓真。よろしく。」 美桜の視界に紙と鉛筆が見えた。 それは、楓真が裏紙に描いていた奏の寝顔だった。 まだ途中みたいだが、凄く綺麗だった。 「…綺麗。そういえば、今日の分の絵渡したの?」 「あ、渡してない。ちょっと教室行って取ってくるよ。」 そう言って楓真は立ち上がったのだが、奏が楓真の腕を掴んだ。 二人が奏の方を見ると、奏はまだ寝ている。 「…七瀬さんってエスパーなのかな?」 楓真のつぶやきに美桜は笑った。 「ふふっ、もしかしたら上木くんセンサーでも付いてるんじゃない? 私取りに行くよ。鞄ごと持ってくればいい?」 「うん、お願いします。」 楓真は美桜に鞄を持ってきてもらうとさっきのお昼代を渡した。 そうこうしてるうちに奏の母親がやってきた。 「すいません、ご迷惑おかけしました。」 奏の母親は奏を起こした。 「大丈夫?歩ける?」 その言葉に楓真はとっさに言った。 「あ、僕が運びますよ。」 「ごめんね、ありがとう。」 奏の母親は楓真に頭を下げた。 その時奏はベッドの傍にある紙に気が付いた。 それは楓真が描いた奏の寝顔。 「綺麗…。これちょうだい…。」 楓真はしまったって顔をしながら、 「それはまだできてないから。今日の分は鞄の中にでも入れとくよ。」 「見せて…。」 「え、今?」 「うん…。」 楓真は仕方なく鞄からその絵を出した。 その絵に奏の母親も感嘆の声を漏らした。 楓真は恥ずかしくなって、 「そろそろ行くよ。」 と言うと、奏は頷きながら楓真の絵を離そうとしない。 「そのままだと抱き上げた時にクシャってなるよ?」 「それは嫌だけど、持っていたい。」 その言葉に一瞬戸惑った楓真だったが、鞄の中からクリアファイルを取り出した。 「じゃあこれに挟んでおこう?」 「うん…これもね。」 そう言って奏が差し出したのは、奏の寝顔が描かれた絵だった。 「…わかったよ。」 結局その絵も奏の手に渡った。
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