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楓真は駅を出て家に帰ろうとした。
「よっ!ヒーロー!!」
そう言って楓真の肩を叩いたのは、奏だった。
「何してるの?」
「何って声かけただけなんだけど。」
「いやそうじゃなくて、七瀬さんって最寄りここじゃないよね?」
「うん、ここから三つ行った所。」
楓真は奏がここに居る意味が分からなかった。
「それにしても意外だったよ、上木くんが痴漢をやっつけるなんて。なんかそういうことには絶対首突っ込まない人だと思ってたよ。」
「あのまま放っておいたら、後悔しそうだったから。後悔が一番めんどくさいから。」
「アハハッ!変わった考え方だけど、いいね!
じゃあ、車掌に突き出さなかったのもめんどくさかったから?」
「まぁそれもあるけど、一番は勇気がなかったんだよ。」
「勇気?何の?」
「痴漢してたサラリーマンの家族を壊す勇気。」
奏は目を丸くした。
「…僕はヒーローなんかじゃないよ。ただの弱虫なんだ。」
「上木くんは、優しいんだね。」
「は?」
「痴漢を見てその場で傷ついてる女の子だけじゃなくて、痴漢してる人の家族までちゃんと考えてるんだもん。上木くんは弱虫なんかじゃなくて、すっごく優しいんだよ。」
今度は楓真が目を丸くした。
「…面白い考え方だね。」
「ねぇ、上木くんの絵が見てみたい!」
突然奏が叫んだので、楓真はまた目を丸くした。
「…学校の中央階段の所に飾ってあるよ?」
楓真が一年の時にコンクールで入賞した絵が学校の中央階段に飾ってある。
楓真はそれ見たらいいじゃん?と、思っていた。
「違うよ!それ以外の絵が見てみたの!!
あの絵は風景画でしょ?例えば、人物画とか!」
楓真はなぜ奏がそんなことを言うのかわからなかったがとりあえず頷いた。
「明日、学校に持っていくよ。」
「せっかくここで降りたんだもん、今から上木くんの家に行きたい!」
楓真は一瞬言われたことの意味が分からなかった。
「は?いやいやいや!」
「上木くんの家ってどこなの?」
奏はもう行く気満々だ。
楓真はあきらめて奏を家に連れていくことにした。
(七瀬さんってこんな強引な子だったんだ…。)
楓真はこれからお姫様のわがままについて行かなくちゃならないことを知らなかった。
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