零枚目 約束

5/5
前へ
/66ページ
次へ
「ただいま。」 「お邪魔しまーす。」 「おかえ…り…。ちょっと!」 家にいた楓真の母親、加奈子が奏の姿を見たとたん、楓真を引っ張った。 「あんた、どうやってあんな可愛い娘捕まえたのよ!?」 「いや、母さんの思ってるような関係じゃないから。」 楓真はそう言うと、奏を呼んだ。 「僕の部屋、二階だから。」 奏は加奈子にお辞儀をしてから、楓真の後を追った。 「わぁー…!」 奏は楓真の部屋が綺麗で驚いた。 「男の子の部屋ってもっと汚いイメージがあったけど、私の部屋より綺麗だよ!」 楓真の部屋は無駄なものがあまりなく、黒と青で統一された部屋だった。 一方楓真は奏の言葉に引っかかった。 「"男の子部屋ってもっと汚いイメージ"って…まさか、男の部屋入るの初めてじゃないよね?」 「初めてだよ。まぁ、お父さんの部屋とかは入るけど。」 楓真はまたまた目を丸くした。 「何考えてんの!?普通女の子が男の部屋に入るっていうのは…その…」 「キスしたり、セックスしたりするんでしょ。」 「うん、そう!…ってそんなこと女の子が言っちゃダメでしょ!」 「だって女子を前にして男の子がそんなこと言えないでしょ? そんなことより絵見せてよ!」 楓真は呆れながら、自分の絵が入ったファイルを奏に渡した。 奏はベッドに寄り掛かるように座りながら、ファイルを見た。 「…すごい。」 「飲み物何がいい?」 「じゃあ、ウーロン茶あるかな?」 「わかった、持ってくるよ。」 楓真はそう言ってキッチンに向かった。 そのファイルには色々な絵が入っていた。 風景画、人物画、静物画… スケッチ、水彩画、色鉛筆画… そのどれもに奏は惹かれた。 楓真は戻ってくると、静かにテーブルにグラスを置いた。 その後ひとしきりファイルを見終わった奏が言った。 「ほんと、すごいよ…! ねぇ、いいこと思いついた!!」 「何?」 正直楓真は嫌の予感しかしなかった。 「毎日、私のこと描いてよ!」 「は…?」 楓真の脳は思考停止した。 「うん、そうしよ!」 「いやいや!」 「簡単なスケッチでいいから、描いてくれないかな?それでもし上木くんがその絵をコンクールに出したかったりしたら、遠慮せずに出してくれていいから、ね?」 正直、楓真は悩んだ。 楓真は人物画がどちらかというと苦手で、半年後のコンクールのテーマが人物画だったからその申し出を受けるか悩んだ末、 「わかったよ。」 そう言った。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加