デビュタントの夜。(ハリム目線)

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社交界においてデビュタントの令嬢たちは白いドレスを着る。 今夜の夜会にも何人かいるようだ。 貴族の令嬢たちはだいたい13、4でデビュタントを向かえる。 上位貴族の令嬢ならその年ですでに婚約者のいる娘も少なくない。 婚約者のいる令嬢は婚約者にエスコートされて、いない令嬢は父親にエスコートされるのが一般的だ。 (……気の毒に) ただし何事も例外はある。 たとえば令嬢が父親ではなく英雄の兄にエスコートを頼んだ場合など。 緩やかにアップにした薄茶の髪に同じ色の瞳をした令嬢を緊張の面持ちでエスコートしてきた上司兼友人の様子を見守りながら、ハリムは彼らの父親に同情した。 娘のデビュタントのエスコートは父親にとっても特別なものだと聞く。 実際彼らの父親は張り切ってこの日のためのタキシードを新調したのだと話していた。 それなのに。 直前になって「やっぱりお兄様にエスコートしてもらう!」と言い出された父親の心情やいかに。 (あとで挨拶がてら慰めに行くか) さて、彼らの父親はどこにいるものか。 ーーいた。 広い会場の片隅。 カーテンにくるまるように隠れて悔しげに娘と息子を見つめている筋骨隆々の大男。 (何をしてるんだか) 仮にも一国の公爵位にある人間のやることか。 やはりアソコの家族はどうかしている。
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