月と君と彼と

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「こんにちは」 目の前にはスラリとした背丈の男子高校生。 写メでは何度も見た顔だが こうして近くで本物を見ると当然かもしれないが全然違う。 「こんにちは」 写真というのはその人の一部だけを切り取っただけ過ぎないが 声その口調に仕草と服の着こなし、更に漂う雰囲気が加わる事で 印象は刻々と変化する。 「?……こんにちは、学校に何か用ですか?」 髪色はやや明るめの今風の男の子だが 変に着崩した感じがないところを見た限り地毛かもしれない。 「いえ、君に」 こうやって人と話す時、相手の目を真っ直ぐ見てる。 それは他人の話には耳を傾けるタイプで協調性があり、 自分の意見もキッチリ伝えられる……或いは、 負けず嫌いな性格かな。 にしても、思った以上にかなり格好良い、 さぞや女の子にモテて仕方がないだろう。 ……これは相手にされないかもしれないな。 「俺ですか?」 既に若干引かれ気味だし。 ……まぁ、無理もない。 このご時世幾ら男とはいえ、いきなり知らない男に声を掛けられては 不審者のラベルは多種多様で乱発気味に発行されているから 俺も簡単にどれかに分類されてしまう可能性がある。 ここは慎重に言葉を選ぶべきだ。 一瞬の躊躇いはあったが、 それを上回る強い望みが今の俺を突き動かしている。 何の為にここ数日仕事を切り詰めて彼に会いに来たのか その理由がある限り――― 「初めまして、私は九方といいます」 そう言って名刺を差し出した。
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