闇へと消えた少女に捧ぐ

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街路樹の枝に新緑の芽が葺き始め、ソメイヨシノの桜色の花が一斉に開花すると、冬の寒さに嬲られて色褪せた街角の光景が、俄かに活気づく。 四月の初め、新学期の季節。 明るい初春の日差しに満ちた道路を歩いていると、新しい制服に身を固め、緊張と期待に満ちた面持ちで、近隣の高校へ登校して行く新入生らとすれ違う様になる。 彼らの後ろ姿を見送る度に、私は思い出す。 ―幽霊は見えないけど、妖怪は見えるという話を聞いた事はありませんか―。 そんな摩訶不思議な質問を投げ掛けて来た、あの少女の事を。 私は怪談作家をしている。 怪談作家とは、所謂ホラー作家とはまた違った存在で、巷で聞きかじった不可思議な出来事や体験談を取材して、それを整理し清書して「本当にあった出来事の物語」として世に発表するのを生業としている。ただ、私の様に学歴が高くも無く、単純に、ものを書くのが好きなだけの人間が作家先生を名乗るのはおこがましい様な気がしているので、普段は「怪談屋」と自称している。アーティスト、クリエイターという括りより、職人的な存在を意識しているとでも言えば伝わりやすいだろうか。  元はといえば蒐集していた怪談は、伝奇ホラー小説の設定の下地として、趣味で集めて居たものが殆どであった。そうして手元に集まった体験談を、たまたま某出版社の特設サイトに投稿し、それが編集者の目に留まって、幸運にも著書を出す事が出来た。 2008年の秋の事である。 同時期に発表した掌編怪談や創作怪談が、別の版元の短編集に収録されたのも幸いして、私は業界の片隅にちょっとした居場所を見出していた。 彼女と初めて出会ったのは、この頃だ。 怪談集を発行していた版元が、オカルト関係の月刊誌「F」を発行していた関係から、インターネットにファンサイトを立ち上げていて、私もここに登録していた。元々の狙いは版元のお抱え作家と読者層の交流を深めながら、執筆陣に怪談提供者を開拓させる目的もあったらしい。 この「F」のファンサイトは登録ユーザーが一時期は三千人を超え、大まかな意味では成功してした。ここでの交流をきっかけに、現在でもお付き合いを継続している提供者の方が何人か居る。ただ、ユーザーの中には、単に思い込みの強いだけの方や、行動や言動の大いに怪しげな方、山師的な人物も混在していて、玉石混合という言葉がピッタリのサイトでもあった。  
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