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建物に入ると最前列の木製の椅子に、何かがいた。
「やぁ、ハイヤーハムシェル。時間に遅れるとは契約に従順な
ユダヤ人にしては珍しいな。早朝から待っていて日暮れ前だ。
尤もその分、多くの時間を神への祈りに捧げられたがね。」
「感謝しとるよ。」
黒服の男性は、粗雑で硬い椅子に長時間座っていたためか、
少し体が痛いそぶりを見せながら、ゆっくりと立ち上がった。
少し、歩み寄り3mほどまで近づいたとき、
ハイヤーハムシェルは腰を深く折り、頭を下げた。
「真に申し訳ありません。馬車が遅れてしまいました。」
ハイヤーハムシェルは素直に謝罪した。本当に申し訳ない。
待っていたのが、かなり高齢の方であり、真っ暗闇で
一人で半日待っていたことを考えれば、当然の感情だ。
暗がりに目が慣れると、ラビだとわかった。
「いったい、なぜ私はここに呼び出されたのでしょうか?」
大体、接待役についてだろうとは想像できたが、
直接、言葉として聞くことは大切だ。推測は時として
致命的なミスを生む。だから、「私は聡明だ、推察できる。」
などと言う態度は微塵を見せず、尋ねてみた。
すると、老人は高価そうな装飾された箱の封印を解き、蝋で閉じた
一枚の手紙を手渡してきた。
それを読んだときの衝撃を隠せた自信は無かった。
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