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このチャンスに、妹を腕のいい医者に見せてやりたかったが、代金が
宝石では明らかに怪しい。だから闇の医者を探していた。
高級住宅街の一角を妹を背負って歩いていた。
「こんなにも軽くなるなんて、」
妹の病気が心配だった。
自分たちの住んでいる、汚泥と糞尿にまみれた街と
ここはなぜこれほどまでに違うのだろうか。
日曜日の教会で、憎きブルジョアと叫ぶ
神父の言葉が、肌に凍みる。
10月のマンチェスターは、夜明け前という事もあって、
凍えるような寒さだ。ライアンの着ている、穴だらけの
薄いシャツとぼろぼろの半ズボンで耐えるには
かなりの忍耐を要する。
それは妹も同じだろう。
15分ほど歩き続けると、目的の闇の医者が見えてきた。
これだけの宝石があれば、ずっと暮らしていけるだろう。
妹を置いていくのは心苦しいが、自分が盗賊団に捕まれば、
妹も見せしめに殺されるだろう。
闇医者とて鬼ではないだろう、これだけの報酬を払えば大丈夫なはずだ。
そう思い決意を固め叫んだ。
「夜分すみません、開けてください、ドアを開けてください。」
アデルは早朝、外で物音がするような気がして起きた。
寒さで乾燥した空気が絡みつき、喉がひりつく様だ。
ベッドの脇においてある陶器製の水差しから、陶器のコップに
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