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「ふむ、専用馬車であったはずだが、さすがにこの豪雨と霧では仕方ないか、
まあ、私を待たせるのは一向に構わんが、王女殿下を待たせたら、
その首を斬られるぞ、物理的な意味でな。」
ハハハ、にこやかに笑い声を上げると、
「冗談だよ、殿下はそれほど狭量ではない。」
そういいながら、老人はこう言葉をつなげた。
「殿下が殺せと命令されれば、いつでも殺すがね。」
これは本気だ。事実に違いない。
正直ボスであるハッペンハイム卿が恨めしい。
「ひとつ聞いてもいいかな、君はその若輩とも言える年齢で、
ハッペンハイム銀行の重要な一翼を担い、ハッペンハイムが
王女殿下の接待役に推薦するほどの人物だ。」
老人はふと目を落とし悲しそうな顔をした。
しかし、その双眸は怒りに満ちているようでもあった。
「半年で、このゲットーの人間が何人殺されたか知っているかな?」
ハイヤーハムシェルは黙して待った。ここで言う言葉など無い。
問いかけでないことは確実だ。これは独白だ。
「120人だ。フランクフルトでは日常だろう。
だがここは我々の地だ。」
「しかも、一般民衆の溜め込んだ宝石を奪っていく。
理由がわからんのだ。
小さな宝石に価値は無い、・・・はずだ。」
老人はそう言うと、ハイヤーハムシェルの言葉を待つように
黙り込んだ。
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