監獄の住人 Citizen of Prison

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水を注ぐと、流し込むように飲み込んだ。 のどの痛みは少しましになったようだ。 元々、ユダヤ人貧民街ゲットーで、塵を拾って暮らしていたが、 この家の主のガブリエルに、治療をしてもらったとき、 支払えるお金も無く、おそらく主である医者が同情したのだろう、 幸運なことにゲットーの外の医者の家で住み込みで、 現在は、看護婦のような仕事をしている。 ユダヤ人がこんなところに暮らしているのは重大なリスクだ。 大英帝国ではユダヤ人への差別も少なく、寛大なほうだ。 これがフランスやスペインならいつ殺されてもおかしくない。 2階にある自室の窓を開けてみると、ドアの前にボロボロの服を着た 乞食にしか見えない兄妹が座り込んで、大声で必死に叫んでいた。 そもそもここに来るのは、同胞の富裕層か、 こういう馬鹿な勘違いか訳ありの貧乏人だ。 どうせお金など持っていないだろう。 どう追い返そうか思案をめぐらせながら、ランプに灯を点すと、 アデルは、部屋のドアを開け廊下に出た、そして階段を降りて行った。 ドア越しに話しかけることにした。まずは代金の確認だ。 そう考え、「お代はお支払いいただけるのでしょうか?」 アデルはお金は持っていなさそうだなと思いながら返事を待った。     
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