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「救貧院か教会にいかれてはどうですか?」そう言うと、
青年はやつれてボロボロの少女を抱えて必死に声を絞り上げた。
「お、お金はありません。」
(ああ、そう)しかし叫ばれるのは迷惑だ。
この類は、学習能力も無く叫ぶだろう。
しかも、少女が死んだら恨みそうだ。困った。
ドアの中ほどにある覗き穴をじっと覗きながら
アデルは兄妹の様子を注視していた。
すると青年は、アデルが想定していない言葉を吐いた。
「あ、あのう、宝石ではダメでしょうか?おそらく
ダイヤモンド、それにルビー、サファイヤ。」
青年は怯えながらそう言った。
「えっ!」
さすがのアデルも驚いて思わず、声を出してしまった。
動揺を悟られないように口に手を当て、深呼吸をする。
金持ちやユダヤ人ならともかく、こんな浮浪者が
闇医者に宝石を持ってくる。ただ事ではない。
反応の無いアデルに向かって、青年は何かを悟ったらしく
こう付け加えた。
「知人に宝石商がいまして、財産を持ち運びできるように
宝石に交換して、ウェールズからマンチェスターに出てきたんです。」
ライアンもこんな嘘が通用するとはまったく思っていなかった。
だが妹を助けたい。「お願いします。」意識が遠のき
体が崩れ落ちる瞬間、ドアの鍵が開く音を、聞いた気がした。
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