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アデルはいぶがった。なんて馬鹿な男だい。
盗品だと言っているようなモンだよ。
なんで、こんなに宝石を持っているんだい。
不自然だねえ。放って置くわけには行かないねえ。
アデルは一大決心をした。すごい演技をするぞと気合を入れた。
できるだけ、慈愛に満ちて心配する、優しいお姉さんに見えるように。
「そうだねえ、まあいいわ。どんとまかせな。」
「いま先生を呼んであげる。」
ドアを開けると、喜んだその兄妹をそそくさと招きいれた。
絶対に逃がさないように。
「先生、先生、急患です。」アデルは家中の人間に聞こえるように、
大声で叫んだ。アデルとしては銅鑼でも鳴らして回りたい気分だ。
寝ぼけた使用人や同僚の看護を仕事とするものが、
いっせいに起きて来た。
「なんだ、なんだ、うるさいな。」
アデルの主でありラビであるガブリエルは不機嫌そうだ。
しかし、アデルが無意味にこんなことをする馬鹿でないことや
いたずらをする人間でないことも知っていた。
ガブリエルはバケツに頭を突っ込むと10秒ほど息を止め
顔ををあげた。鼻から水が入り込みむせた。
タオルを取って顔と頭を拭くと、寒さが身に浸みた。
だが、かなり頭ははっきりしてきた。
アデルは寝ぼけた使用人に兄妹を案内するように言うと、
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