監獄の住人 Citizen of Prison

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「はぁ、どうするんだろうね。」 アデルはため息をつきながら、立ち尽くしていた。 B ここは大英帝国、アン女王の逝去によりドイツからやってきた ハノーファ朝の支配する。7つの海の支配者の大英帝国である。 植民地からの大量に安く流入する物資で、急激に工業化が進み 世界で唯一、産業革命を起こした超大国である。 首都ロンドンから紡績の都市マンチェスターへ続く主要路は この季節には珍しく、雪にもならず、かといって雨ともいえない すさまじい勢いで降り続くもので覆われていた。 道路は降り続くものでぬかるみ、路行くものすべてが足を取られ、 ゆったりとした勢いで動いていた。背中に荷物を背負い何かに打たれながら、 ゆっくりと歩く農民、荷馬車に油を塗った麻の布をかけて、商品の 綿製品を首都ロンドンまで運んでいく行商人、多くの荷物を載せた馬車は ぬかるみにはまり立ち往生していた。 そんな中、時折鳴り響く雷鳴が、王侯が乗るような豪華に仕立てられ、 磨き上げられた馬車を光に包み、輝かせていた。 誰が乗っているのかは窺い知れないが、装飾過剰ともいえるその馬車は 4頭だてであり、馬も筋骨隆々とした4歳から5歳の牡馬だ。 ただ、その馬車は、周囲のぬかるみやゆったりと流れる人々を     
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