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鯉のぼりは子の成長を願うもの――僕は寿命だっただけなのに、鯉のぼりを立てなかったせいで死んだと思ったのだろう。
僕の死後、母は周りの声を無視して毎年鯉のぼりを立てた。
それを知った僕は、せめてもの親孝行と思い、死神となっても年を重ねる選択をしたのだ。
「成長したあなたと会えて嬉しいわ、ありがとう」
母の目にはうっすら涙がたまっている。
同僚が慌てて僕の隣に来た。
「重大な服務規程違反よ。消されるわ、あなた!」
「いいよ」と僕は手を振った。
大好きな仕事だったけど、もうなんの未練もない。
呆然とする同僚を残し、僕と母はものすごい勢いで、空の彼方へと吸い込まれていった。
(終)
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